ホールホグ2の登場とときを同じくして、ムービングライト時代の幕開けを象徴する3Dシミュレーションソフトが1995年に登場しました。それがWysiwyg シミュレーションソフトウェアです。
このカナダCASTライティング社のソフトウェアは爆発的に増える当時のムービングライトのプログラミングをサポートするために生まれたものです。このコンピューターを使用するソフトウェアの登場から、一気に照明機器はコンピューター産業のハードウェアやプラットホームを使用したアーキテクチャーへと変っていきます
Wysiwygの誕生 ( Lighting & Sound International 2004 年9月号 WYSIWYG and Beyond より )CASTライティング社長のデンシャムが話します
「既に我々はデザインプロットをPC上に描くことができて、今2Dビューを使用しているが、我々の仕事が3Dにもかかわらず、なぜこのビューを3Dで見ることができず、そしてライトを動かすことができないのか、」こう考えたとき今行っている3DのビューをなんとかしてPC上に再現する方法がないかと考えたのです。
そしてもう1つ、デンシャムを「照明デザインを画面内に3Dビューで再現する」という考えに駆り立てた別の要素として、ロンドンの有名なライティングデザイナー、パトリックウッドロフと彼の4分の1サイズスタジオというものがありました。このスタジオはすべての照明器具やトラスを1/4サイズに縮小しながらも、実物と同じように制御ができ、照明デザインをリアルにプレゼンテーション可能とするクールなスタジオでした。
デンシャムは説明します。プロデューサーの話では、パトリックは小さなベイビーパーツとスクローラーを使って、午前中に1つのシーンを完成させてみせ、皆がパブに行って戻ったときには、また新しいシーンをステージに完成させてみせてくれたそうなのです。
デンシャムはコンピュータ環境でウッドロフのような自分のモデルルームを造りたかった。ウッドロフのように照明コントロールルームに人がいなくてもわざわざ現場に行かなくても照明を作って見せることができるような環境。そして、それがすべての始まりだったのです。−コンピューター環境における照明デザインー
Wysiwygは、たとえワイヤーフレームの画面描画であったとしても、当時は画期的なものであったため、バージョン2から本格的に売れるようになります。このあたりからコンソール関連のメーカーはコンピューター業界に歩調を合わせるようになっていきました。そして時代はウィンドウズ95になり、ここにきて一般家庭にまでコンピューターが普及し、マシンパワーも指数関数的な進化をしていくことになります。
照明のシミュレーションというとこの当時、建築分野などにはすでに緻密なレディオシティレンダリングを行う高価なソフトウェアがあったものの、WYSIWYGのように照明コンソールの入力を再現することや、ステージ用機器の光源をライブラリーに持つものなどは存在せず、このソフトウェアは画期的なソフトウェアでした。そしてなにより、コンピューターの急激な進化は、こうしたシミュレーションを特別なものではなく、一般的なものにしてしまうほどに破壊的な側面をもっていたことは確かです。
シミュレーションソフトとコンソールの融合 コンピューターによる照明のシミュレーションが一般的になりつつあった1999年世紀末、ムービングライトの分野では先駆者であるバリライトがアルチザンに続くバーチュオーソというコンソールを発表し、これが一般に販売されることとなりました。このコンソールは、初めてシミュレーションソフトをコンソール内に統合したもので、このことがコンソールとシミュレーションソフトとの関係に大きな影響を与えます。
バーチュオーソはDMXコンソールであり、今までのバリライト専用プロトコルの呪縛を解いた初めての機種です。またOSにアップルのMACOSを採用して、汎用OS上で動作するアプリケーションという形式をとった初めてのコンソールとも言えます。
Virtuoso DXは2種類の出力を持っている。( DMXとVirtuoso信号 )Virtuoso信号はArtisan信号に非常に似かよった信号方式で灯体側に記憶を持たせる方式だが、同時にコンソール側でも、各灯体の記憶を持たせることによりそれまでは不可能であったオフラインプログラムと呼ばれるコンソールだけでプログラムする事が可能となった。CASTとETCの接近バーチュオーソとときを同じくして、ETCとCASTライティングが提携し、WysiwygをETC製コンソールと一体化させるシステムが作られました。これがエンファシスシステムです。ETC社はライトパレットから続くシアターコンソール系の最終形としてオブセッション2を投入するものの、やはりライトパレットを基本とし、そこから脱却できなかった故にこの機種でムービングライトコンソールに関して完全に出遅れることになりました。
そうした中にあってオブセッション2はムービングライトコントロールを視野に入れたコンソールでしたが、その斬新な見た目とは異なり概念はスタンダードな照明用コンソールでした。ETCはこれをエンファシスというシステムで補完しようと考え、当時、同社の製品ラインナップにあったコンソール、インサイトやエクスプレス、インプレッションといったコンソールパネルをユーザーに選択させ、PCにインストールしたWysiwygとネットワークケーブルで接続し、ソフトウェアによってWysiwygの中で操作したフィクスチャー情報をコンソール側に反映させるシステムに仕上げたのです。
Emphasisとは、サーバーPCを核とした、ライティング・コントロール・システムで、ETC独自のプロトコルである「ETCNet2」を使いネットワーク接続することによりWYSIWYGヴィジュアライズ・ソフトウエアとライティング・コンソールが連動し統合的なシステムを構築することが可能となる。よってその出力にはイーサネットを使い、それをDMXノードによってDMXに変換する必要がある この汎用コンピューターやそのシステムを利用した製品開発は、さらなる広がりをみせます。 2001年、ロンドンで毎年開催されるプラザという展示会では、エボライト社がダイアモンドシリーズの後継機となるダイアモンド4を発表。
このコンソールの特徴は今までどおりの、やはりロックコンサートのライティングボードという枠を逸脱しない大型のデザインで、見た目には2段プリセットスタイルのコンソールに見える。しかし最も大きな変化が、そのシステムにありました。今までのエボライト製品はAVOSという専用に設計されたOSの上にソフトウェアを動作させていましたが、この機種でエボライトは自社OSと手を切り、汎用OSに切り替える選択をとったのです。
2002年、イタリアのリミニで開かれたSIBというエンターテイメントテクノロジーの展示会においては、ムービングライトで大きな成功を収めたデンマークのマーチン社が新しいライティングコンソールを発表します。すでにムービングライトのためのシミュレーションソフト、マーチンショーデザイナーを持っていたマーチンは、これをコンソールに組み込み、先のバーチュオーソやエンファシスのようなアプローチでコンソールを作ったのです。
こうして、2000年からの数年の間にコンソールが一般のPCと同様のシステムを採用するようになり、この流れは不可逆なままに、ますます加速していくことになります